前回は復元のお話だったので、修復のことも少し。
70年前のもの。日本医科大学の山岳部のバックルです。手で持っている部分の金具が外れてしまっていました。

これは近所の建築家のおばあさんからのご依頼で、山岳部の部長だったお父様のもの。二代に渡り大事に持ってらっしゃたので、新品のように戻すのではなく、修理を思い立った今の、思い出を詰め込んだ風合いを目指して修復することにしました。
外れた金具をロー付けで接合すると真っ赤になるほど高温で熱するので、表の文字のメッキははがれ、色味や風合いが変わってしまいます。酸洗いをすると、思った通りまるで別のもののようになってしまいました。この段階ではまだ修理の気持ち。

あの手この手で元の雰囲気に近づけます。これは修復の気持ち。下処理を施し、緑青の粉を溶かした液でぐつぐつ煮込みます。

驚く程元通りの色がつきました。熱を通したので、慎重に鎚を入れヘラで締め、文字の部分を光らせたり縄や山の陰影を味付けします。

あずかった時の雰囲気さながらの色味と重厚感を出すことができたと思います。依頼主もとても喜んでくださいました。かけがえのない一点物は、重圧が本当に大きい。その分、大事に使い続けて来たものの風合いを、目に焼き付けることが出来ます。